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ウマ娘。彼女たちは走るために生まれてきた。
時に数奇で、時に輝かしい歴史を持つ別世界の名前とともに生まれ、その魂を受け継いで走る。
それが、彼女たちの運命。
この世界に生きるウマ娘の、未来のレース結果は、まだ誰にもわからない。
彼女たちは走り続ける。
瞳の先にある、ゴールだけを目指して。
『トーカイテイオー!!トーカイテイオーだ!!!トウカイテイオー!!奇跡の復活!!!!!』
あの日、私は本当の意味で夢を駆けるという事を教わった気がする。私の中で憧れというものが、より重たい意味を持った瞬間だった。
ふと、こんな事を思い出したのは、今日が憧れへの第一歩であるトレセン学園の入学初日だからだろうか。
「だから言ったじゃない!大事な日の前は早く寝なさいって!」
「だってだって、緊張してなかなか眠れなくってぇ!」
そんな晴れ日だからこそ、後ろを走るサトノダイヤモンドことダイヤちゃんの文句に返す言葉も、心なしか弾んでしまう。
そのワクワクした気持ちは、トレセン学園の校門を目の前にしてピークに達する。
「いよいよだね、ダイヤちゃん」
「うん、一緒に頑張ろう、キタちゃん」
私、キタサンブラックの夢は、今ここから駆け出す。
「───トゥインクルシリーズにデビューし、活躍する事です。そして、デビューをするにはチームへの所属が必須。入部テストに合格したり───」
入学式を終え、教室に到着し自分の席につくと担任教員からの学校説明が始まった。私の席は一番後ろの窓際だ。やったね!
しばらく説明を受けつつも目を外に配ったら、先輩方がグラウンドでチーム勧誘の準備を始めていた。
その中には見覚えのあるウマ娘もいて、やっぱりトレセン学園に入学したんだと今更ながら頬をつねられたような気持ちになる。
そして、その中に私の『憧れ』そのものであるトーカイテイオーさんを見つけた。
(わぁ~!テイオーさんだ!あの凜とした佇まい!自信に満ちた表情!やっぱりカッコいいなぁ~!)
気付けば私は、席を立って窓の外に体を向けていた。
「──それとキタサンブラック…キタサンブラック!」
「はっ、はいっ!」
「今はこちらに集中しなさい」
「す、すみません……」
クラス中の笑い声が漏れる中、私は赤面しつつおもむろに座る。隣の席に座るダイヤちゃんも、あちゃあといった表情だ。
学校説明が終わるとチームの説明会を聞くため、新入生を祝うかのように飾り付けされた廊下をダイヤちゃんと話しながら歩く。
「チームの説明会、楽しみだね~!」
「キタちゃんはやっぱりスピカ?」
「もっちろん!」
「テイオーさんがいるもんね」
「エヘヘっ、ダイヤちゃんだってスピカでしょ?マックイーンさんもいるし」
「私は………ッ!───ごめんねキタちゃん、私ちょっと」
「えっ、ダイヤちゃん?………あの子、誰だろう」
話の途中で、ダイヤちゃんは先に駆け出してしまった。彼女を待ち受けるのは、私が見た事のないウマ娘だ。
一人残されて二人が話す様子を呆けて見ていたら、そんな私の意識を大声が切り裂いた。
「そこのアナタ!!!」
「ひぃぃっ!!?」
「ふぅむ──やはりです!その綺麗な瞳!あなたからは学級委員長であるこの私と同じ素晴らしい才能を感じます!」
「え、えぇ…?」
「そして、運命的な何かも!!」
「わ、私ですか…?」
「是非とも!私とともに世にバクシンを広めていきましょう!」
「え、バク…?えぇ!?」
「優等生である私とアナタで生徒みなさんの模範となり、世界をよりバクシンさせるのです!どうですか!?素晴らしいプランでしょう!?さぁ、ともに!さぁ!!」
「えぇと、その………考えておきますぅ~!!!」
「えぇ~!?なんでぇ~!!?」
猛烈な押しの強さと唐突な提案に、思わず逃げ出すようにその場から走り出してしまった。
一体何だったんだろう、あの人…不思議と悪い気はしなかったけど。
「はぁ~、ビックリしたぁ…」
「キタちゃ~ん!なんだか元気な先輩に絡まれてたね」
「うん、圧倒されちゃった」
向こうも話が終わったのか、ダイヤちゃんが駆け寄ってくる。
「知ってる人?」
「ううん。でもなんか、ちょっと親近感湧いちゃったかも」
「え、そう?」
「う~ん、なんとなく」
あの人も言ってたけど、なんだか「運命的な何か」を感じちゃってるんだよね。もしかしたら、これからも会う事があるのかも…
「ダイヤちゃんは、さっきの子は知り合い?」
「あっ、うん!同じサトノグループの子でね、クロちゃんっていうんだ!海外に留学してたんだけど、トレセン学園に入学するために帰ってきてたんだって!」
「へぇ~」
「どうしたの?」
「あっ、うん、なんだか強そうな子だったなぁって。あと……ううん、なんでもない!」
『新入生にお知らせです。間も無くトレーニングコースにて、チームスピカ・パフォーマンスレースが開催されます』
私たちの会話を終わらせるかのように流れた校内アナウンスは、私の意識を持っていくのに十分な内容だった。
「わぁっ、ホントに!?見にいこう!ダイヤちゃん!」
「うん!」
私はダイヤちゃんと二人、胸が踊る気持ちでトレーニングコースへ向かった。
到着すると、ダイワスカーレットさん、ウオッカさん、ゴールドシップさんが鎬を削るように走っていた。
しかし、なんといっても一番はテイオーさんとマックイーンさんの模擬レースだった。
互いの憧れが火花を散らすように走り合う光景に、私もダイヤちゃんも輝く瞳をレース場から離せず、瞬きすら忘れて見入っていた。
「とうとうここに来たんだね、ダイヤちゃん」
「そうだね、キタちゃん」
「私、チームスピカで絶対にテイオーさんみたいな沢山の人を魅了する最強のウマ娘になる!」
「私も、絶対にマックイーンさんみたいな強くて美しいウマ娘になるよ!」
「一緒に頑張ろうね!ダイヤちゃん!」
「そうだね!キタちゃん!」
私たちは親友だ。でもそれ以上に、今はライバルとして意識してしまう。
そんな盛り上がる気持ちを前面に右手を差し出すと、彼女も同じ気持ちなのか私の手を取り、熱い握手を交わした。
そう、今ここから、私たちのトゥインクル・シリーズは始まったのだ!
………なんて、ドラマチックに感動していた時期が私にもありました。
「どうしてダイヤちゃんスピカに入ってないの!!?」
入学式から数日後、新入生もみんなチームに所属した頃、なんとダイヤちゃんはチームスピカに入らなかったのだ。
思わず大声を出してしまい、朝からクラス内で注目の的だ。入学初日から悪目立ちしてばっかりな気もするけど、今はそんな事にかまっていられない。
「キタちゃん、声がおっきいよ…」
「あ、ごめん…って、そんな事よりもどうして!?私ダイヤちゃんと一緒にスピカに入るものだとばかり思ってたんだよ!?」
「そういえば言ってなかったね、私の入るチームの事。私、目標のためにスピカへの入団はやめたんだ」
「え……目標って…?」
「目標というよりは、悲願と言った方が正しいかも。サトノ家が果たせなかった『G1制覇』という悲願、それを叶える為に私は、サトノグループのメンバーがいるチームカペラに入ったの」
「そんなぁ~、聞いてないよ~…」
「言い忘れててごめんね、キタちゃん。でも、私にとってはどうしても譲れない事だったの。憧れのマックイーンさんがいるスピカに入る事も、二の次にするくらいには…」
「………そっか、ダイヤちゃんが決めた事だもん!もう何も言わない!私の方こそ、勝手な気持ちばかり押し付けちゃってごめんね!」
「ううん、一緒のチームになりたいって気持ちは本当に嬉しかったよ!ありがとう、キタちゃん」
「ダイヤちゃん……!」
ダイヤちゃんの気持ちに、涙が出そうになった。でも、だからこそ私はこらえて、代わりに右手を差し出す。
「これからは、私たちライバルだね」
「うんっ!絶対に負けないよ!」
テイオーさんとマックイーンさんのレースを見た後のように、お互い熱い握手を交わす。でも、心なしかあの日よりも握る手に力が入っているように感じた。
私はこの時、まだまだわかっていなかったんだ。
ダイヤちゃんの覚悟も、私の甘さも。
トゥインクル・シリーズの、過酷さを。
To be continue…
【ウマ娘プリティーダービー3期決定おめでとうございます!】